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はじめに
今までのブログ記事において、TCFD提言対応やISSB基準に基づく気候変動開示についてその内容の解説をしてきました。今回のブログでは、弊事務所における気候変動開示に関するコンサルティングサービスについてご紹介したいと思います。
コーポレートガバナンス・コードが改訂されたことにより、プライム市場上場会社については、2022年以降、TCFD提言又はISSB基準に基づく気候変動開示の質と量の充実を進めることが求められています。また、金融庁は有価証券報告書における気候変動開示の義務化を検討しており、プライム市場以外の上場会社についても今後は気候変動開示が必要になってくる可能性が高いと思われます。
一方で、ISSBからはIFRSサステナビリティ開示基準の公開草案が公表されており、2022年度末までの最終化が予定されています。日本におけるIFRSサステナビリティ開示基準の適用については、IFRS適用企業による任意適用が今後進んでいくものと予想されます。
上記を踏まえ、前回のブログ記事(「日本企業が取るべき気候変動開示の今後の対応について」)では、以下の提案を行いました。
n IFRS適用企業については、ISSB基準に基づく気候変動開示を新たに開始する(又は既にTCFD提言に基づく開示を行っている企業についてはISSB基準に基づく開示へ移行する)
n IFRSを適用していない企業については、TCFD提言に基づく開示を新たに開始する(又は既にTCFD提言に基づく開示を行っている企業については開示の高度化を推進する)
ISSB基準に基づく気候変動開示はTCFD提言をベースにしていますが、ISSB基準に準拠していると宣言するためにはISSB基準の全ての要求に従う必要があり、対応可能なベースで開示をすればよいとされるTCFD提言とはその点が異なっている点には留意が必要です(ただし、改訂コーポレートガバナンス・コード対応での気候変動開示にISSB基準を用いる場合は、全ての要求を満たせなくても、対応可能な開示の質と量を充実させていけばコードにComplyしたことになると考えられます)。
以下では、これから気候変動開示を始められる企業を念頭に、弊事務所のサービスを紹介いたします。
GHG排出測定業者の選定・ご案内
気候変動リスクは、社会が低炭素経済に移行する際の経済・社会の変化からもたらされる移行リスクと、実際の気候変動の結果としての気温上昇や水害等からもたらされる被害である物理リスクから構成されます。このうち、移行リスクの程度を表す指標がGHG排出量です。バリューチェーンの排出量であるスコープ3を含めて測定した場合のGHG排出量が多いということは、現時点においてそれだけGHGに依存したビジネスモデルであるということを意味し、低炭素経済に移行するにあたっての変化の幅(エクスポージャー)が大きいことになります。
そのため、企業にとっての気候変動リスク・機会の程度を判断するにあたっての出発点として、企業の現時点におけるGHG排出量を測定することが重要になってきます。弊事務所では、企業のビジネスモデルに与える気候変動リスクの影響を考えるうえではバリューチェーン全体のGHGエクスポージャーを算定することが重要であると考えています。
弊事務所では、GHG排出測定業者の選定・ご案内を行っております。
マネジメントやプロジェクト関係者に対する内容説明(研修等)
TCFD提言等は、気候変動についての開示を要求しているガイダンスではありますが、同時に、企業に対して気候変動にかかるリスク・機会を考えるきっかけを与え、戦略や組織体制の変更を促すことを通じて、気候変動にかかるリスクを低減し、気候変動から生じる機会を享受することを可能とするフレームワークにもなっています。
ただし、企業による気候変動に対するあるべき対応の仕方は、企業が置かれている気候変動のエクスポージャーの程度によると思います。気候変動にかかるエクスポージャーの大きい企業にとっては、組織全体で対応する意味があると考えられます。
組織全体で気候変動に対応すると判断した場合に重要なのは、マネジメントを含めた関係者がTCFD提言等の意義や重要性を十分に理解していることです。組織全体が同じ方向を向くことにより、組織の気候変動対応に対する一体感が生まれ、プロジェクトを円滑に進めることが可能になると考えられます。
弊事務所では、マネジメントやプロジェクト関係者へのTCFD提言等の内容説明(研修等)を行っております。
他社開示事例や対応状況の収集と分析
これからTCFD提言対応を始める企業にとっては、同業他社又は自社とビジネスモデルが近い企業のTCFD提言対応の開示を見ることをお勧めいたします。TCFD提言を既に行っている会社は、統合報告書やホームページ等でTCFD提言対応の開示を行っており、これら企業の開示を見ることで、開示のイメージをつかむことができます。また、CDPのホームページでは、TCFD提言に沿ったCDP質問に対する回答が公開されており、これも参考になります。
また、TCFD提言に沿った開示を行う場合であっても、ISSB基準を参照することで、有用な情報を得られることがあると考えられます(この点については、過去のブログ記事「日本企業が取るべき気候変動開示の今後の対応について」で記載しています)。
弊事務社では、他社開示事例やCDP回答を収集・分析し、プロジェクトを進めるにあたっての参考情報としてクライアントに提供しています。
気候変動にかかるリスク・機会の識別と定性的な財務インパクトの把握
上記のとおり、弊事務所では、企業がどの程度のリソースをかけて気候変動対応を行うべきかは、企業の気候変動のエクスポージャーの程度によると考えています。そのため、取るべき適切なアクションを決めるという意味で、まずは気候変動にかかるリスクと機会を適切に見極めることが重要になると考えています。
リスクと機会を見極めるために用いるインプットとしては、上述した、バリューチェーン全体のGHG排出量や同業他社の開示例が挙げられます。そして、気候変動にかかるリスク・機会が実際に発現するのは数年又は数十年先でもあり不確実性が高いため、シナリオ分析を用いて、リスク・機会の内容と程度を検討することが有用とされています。シナリオ分析では、一般に公表されている気候変動にかかるシナリオを用いて、将来時点における気候変動にかかるパラメーターから、その時点における経済社会の世界観を想定したうえで、当該想定される経済社会において企業の現在のビジネスモデルが持続可能なものかどうか、売上等の財務にどのような影響が及ぶかを考えます。
リスク・機会の重要性評価を行うにあたっては、「リスク・機会の発生可能性」と「リスク・機会が発現した場合の企業の財務諸表へのインパクト」という2つの基準をもとに決めることになると思われます。なお、財務へのインパクトについては、TCFD提言及びISSB基準共に、定量開示(金額としていくらのインパクトがあるのか)が望まれてはいますが、弊事務所では、まずは定性開示から行うのが望ましいと考えています。
弊事務所では、シナリオ分析で使用する世界観のたたき台を作成し、関係者とのミーティングを通じて、分析で使用する世界観を完成させます。そのうえで、企業の気候変動におけるリスク・機会を抽出し、関係者とのミーティングを通じて、重要性評価(定性的な財務インパクトの把握を含む)のサポートをいたします。
弊事務所のクライアントへの関与方法
以下では、開示の柱となる「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」についての弊社サービスを説明いたしますが、その前に弊事務所のクライアントへの関与方法についてお話いたします。
上記のとおり、弊事務所では、気候変動開示対応は、単に要求されている情報を開示するというものではなく、企業に行動変容を促していくフレームワークであると考えています。また、気候変動開示対応は、1回限りの対応で終わるものではなく、この先数年・数十年と続いていくものであり、企業自身のプロセスとして機能していく必要があるものです。そのため、弊事務所としては、外部アドバイザーの役割としては、企業の意思決定を手助けするファシリテーターとして機能することが望ましいと考えています。
弊事務所では、検討の主体はあくまでクライアントであり、弊事務所はクライアントの検討をサポートするファシリテーターとして機能いたします。ただし、気候変動リスク・機会が僅少かつ社内リソースが限られている会社については、弊事務所主体でリスク・機会を分析し、開示ドラフトまで作成することも可能ですのでご相談いただければと思います。
ガバナンスとリスク管理
ガバナンスとリスク管理のセクションでは、気候変動ついての組織体制、すなわち、取締役会(監督機能)や経営者(執行機能)が気候変動対応に果たす役割(「ガバナンス」)と、気候変動にかかるリスク・機会を識別・評価・管理する組織内の業務プロセス(「リスク管理」)を開示することが求められています。
どのようなガバナンス・リスク管理体制を設計するかは、企業の気候変動に対するリスク・機会(エクスポージャー)の程度によると思いますが、いずれにしても、企業の現状のガバナンス体制・リスク管理体制を最大限に活用できる形にすることが望ましいと考えています。また、ISSB基準ではガバナンス体制やリスク管理体制について細かい開示要求がされており、これらに従う形で組織体制を変更することで投資家から評価される組織体制を構築することができると考えられます(例、ESG要素の取締役の役員報酬への組み込み等)。
弊事務所では、クライアントの気候変動リスクのエクスポージャーの程度、現状のクライアントの組織体制、基準の要求事項、他社事例等を踏まえて、クライアントに最も適切なガバナンス体制及びリスク管理体制を提案いたします。
戦略
戦略のセクションでは、気候変動にかかるリスク・機会の特定と、当該リスク・機会の企業のビジネスモデルや財務に与える影響、複数シナリオを考慮した場合における企業の戦略のレジリエンス(強じん性)の開示が求められています。
上述した、気候変動にかかるリスクと機会の識別と定性的な財務インパクトの箇所で、将来の起こりえるシナリオに基づき、企業にとっての気候変動のリスク・機会の特定と重要性の評価をお話しました。
この戦略のセクションでは、上記のリスク・機会の重要性評価を踏まえて、企業がどのような対応を取るのか(企業のビジネスモデルにどのようなインパクトがあるのか)を検討する必要があります。
弊事務所では、関係者とのミーティングを通じて、企業の対応戦略の整理のサポートをいたします。
また、戦略のレジリエンス(強じん性)については、上記で財務インパクトを算定した際に想定したシナリオとは異なる複数シナリオにおける世界観を作成する必要があり、当該複数シナリオ下において企業の現在の戦略がどの程度耐えられるものであるかを開示する必要があります。複数シナリオを構築するにあたっては、気候変動だけが異なるシナリオを用いるのか、気候変動以外の企業に関連する他のファクターをも考慮するのかにより、作成されるシナリオ数が異なってきます。弊事務所では、複数シナリオ下における戦略のレジリエンス(強じん性)分析についても、まずは定性的な開示をすることを提案しています。
弊事務所では、複数のシナリオ案を提案し、関係者とのミーティングを通じて、シナリオ分析の前提条件について合意いたします。その後、合意したシナリオ下における世界観のたたき台を作成し、関係者とのミーティングを通じて、分析で使用する世界観を完成させます。そのうで、関係者とのミーティングを通じて、企業が本命シナリオにおける戦略を取った場合において他のシナリオが発現した場合の企業の財務インパクトを分析することで、企業の戦略のレジリエンス(強じん性)分析の作成をサポートいたします。
また、2050年のカーボンニュートラル達成に向けた移行計画(Transition Plan)の開示も求められています。移行計画を作成するうえでは、SBTi認証を取ることが有用と考えられます。
弊事務所では、SBTi認証取得のご案内・手続きと、移行計画のたたき台を作成いたします。
指標と目標
指標と目標のセクションでは、企業が属する産業に関係なく開示が要求される7つの指標と、企業が独自に設定した戦略の実施状況を管理するのに相応しい指標の開示が求められています。ISSB基準に基づく場合には、SASB基準に基づく産業別の指標の開示も必要になります。また、それぞれの指標についての目標値も設定する必要があります。
弊事務所では、開示が要求される各指標について、データの取り方についてのアドバイスを行います。また、スコープ1/2/3のGHG排出量の削減方針についてのコンサルティングも行います。特に、低炭素経済への移行にあたっては、バリューチェーン全体におけるGHG排出量の削減が重要であり、サプライヤーに対してGHG排出量削減の働きかけが必要になってくることが想定されます。弊事務所では、サプライヤーのGHG排出量削減のためのガイダンスの作成等もサポートいたします。
TCFD提言等に基づく開示案の作成
上記において、TCFD提言等で求められる4つの開示の柱について、企業に求められる対応の概略と弊事務所の提供可能なサービスのご紹介をいたしました。気候変動開示対応は、企業に対して行動変容を促すフレームワークであると上述しましたが、開示のガイダンスであることは言うまでもありません。企業がリソースをかけて行った分析も、適切に開示がされなければ投資家には伝わりません。
弊事務所では、クライアントと一緒に行った分析及びその結果を踏まえ、TCFD提言等に対応する開示案を作成いたします。
まずはお気軽にご連絡ください
上記のとおり、弊事務所の気候変動開示対応サービスをご紹介させていただきました。まずはお気軽にご連絡いただければと思います。よろしくお願いいたします。