202210月のIASB会議

 20229月のIASB会議において、ESG特性を有する金融商品のSPPI判定及び契約上リンクした金融商品のスコープに関して、IFRS9号を改訂する暫定決定がなされました。 具体的には、ESG特性を有する金融資産については、一定の要件を満たすことを条件に、SPPI要件を満たすことが明確にされました。また、ESG特性を有する金融商品の発行者についても、組込デリバティブは区分されずに償却原価の中で会計処理するという考えが示されました。関連するブログ記事はこちらをご参照ください。

 202210月の会議では、このようなESG特性を有する金融商品を念頭に、IFRS7号を改訂し追加の開示を要求する暫定決定が行われました。具体的には、償却原価(負債性FVOCIを含む)で測定する金融商品のキャッシュフローの金額又は時期が不確実な条件(contingent event)により変動するような場合においては、以下の開示を要求することを暫定決定しました。

(a)       契約上のCFの金額又は時期を変動させる不確実な条件(contingent event)の内容を定性的に説明する

(b)      契約上のCFの潜在的な変動のレンジについて定量的な情報を開示する

(c)       金融資産についてはグロスベースの帳簿価額、金融負債については帳簿価額を開示する

 上記の開示は、ESG特性を有する金融商品だけでなく、不確実な条件(contingent event)により金融資産又は金融負債の契約上のCFの金額又は時期が変動する全ての償却原価測定金融商品(負債性FVOCIを含む)に要求されます(FVTPLとして会計処理している場合には、上記の開示は適用されないとされています)。

 また、202210月の会議では移行措置についても議論がされました。すなわち、今回のIFRS 9号の改訂により、ESG特性を有する金融商品及び契約上リンクした金融商品(CLI)についての明確化が行われますが、当該改訂により従来の金融商品の分類から変更が必要になるケースも想定されます。このような分類変更については、原則として、比較年度を修正せず、改訂基準を適用する期首において改訂基準に基づく分類変更を行い、帳簿価額に差異が生じる場合には期首利益剰余金として会計処理することが暫定決定されました。結果、改訂基準を適用する年度において以下の開示を要求するとされています。

(a)       改訂基準を適用する直前の、当該金融資産の分類と帳簿価額

(b)      改訂基準を適用した後の当該金融資産の分類と帳簿価額 

なお、IFRS9号:分類と測定のPIRプロジェクトでは、①資本性FVOCI金融商品についてのIFRS7号の追加の開示や、②電子決済システムを用いた場合の現金の移転についての限定的な基準改訂も議論されており、今後これらは一体として公開草案のプロセスに進むと思われます。また、ESG特性を有する金融資産や金融負債が償却原価で測定される場合において、債務者(金融資産の場合)又は自己(金融負債の場合)によるESG条件の充足の見込をどのように実効金利法に反映させていくかについては未だ明らかにされていません。