このページの概要
はじめに
今月のISSB会議では特にGHG排出量の測定(スコープ3測定に際しての軽減措置を含む)に関する重要な決定が行われています。以下、長くなりますが、要点を絞って解説いたします。
Draft S1の目的の明確化
Draft S1の目的は、重大なサステナビリティ関連のリスク・機会に関する重要な情報を投資家等に提供することにより、投資家等による企業価値の判断及び資金拠出の意思決定に資することにあるとされています。この点、10月のISSB会議において、企業価値(enterprise value)という概念がフォーカスされ過ぎてしまうことによる実務の混乱を避けるため企業価値という概念をDraft S1の目的から削除することを決定しており、代わりに<IRフレームワーク>を用いてDraft S1の目的を記述することが検討されていました。
12月のISSB会議では、Draft S1の目的を、以下を記述することにより明確化することが暫定決定されています。
n 企業が自己(及び自己に対する投資家等)のために創造・保存・毀損する価値が、企業が他の利害関係者や社会、自然環境のために創造する価値といかに密接に結びついているか
n 企業が自己(及び自己に対する投資家等)のために価値を創造する際に、どのように資源や関係性を利用しているか
n 企業の資源や関係性への依存や企業による資源や関係性に及ぼすポジティブ/ネガティブな影響が、どのようにサステナビリティ関連のリスク・機会を生み出すか
n 企業のサステナビリティ関連のリスク・機会がどのように企業の成果、将来性、ビジネスモデル、戦略、そして企業が自己(及び自己に対する投資家等)のために創造する価値に影響を与えるか
スタッフペーパーでは、Draft S1が意図し使用していた企業価値(Enterprise value)が<IRフレームワーク>において説明されている自己のための価値創造と同義であること、他者のための価値創造もそれが自己のための価値創造に影響する場合においてはDraft S1の範囲に含まれること、そしてそれらのことは既にDraft S1で説明されていること、すなわち<IRフレームワーク>を用いれば企業価値(Enterprise value)を持ち出さなくてもDraft S1の当初の目的が説明できると説明されています。
また、“サステナビリティ”や“サステナビリティ関連”についての説明も<IRフレームワーク>を用いて記述を拡充することが検討されています。すなわちサステナビリティ(持続可能性)とは、上記のDraft S1の目的の記述にも重なりますが、企業がビジネス上の関係者(ビジネス上のエコシステム)と持続的に関係性を維持し、相手に与える影響や依存関係を管理する能力であり、また適切な価値の保存・再創造・開発を通じて、企業が企業目的を達成するために必要な全ての資源(金融、人的、自然)にアクセスするための条件であるとされています。
Draft S1に付随するillustrative Guidanceの拡充
Draft S1にはillustrative guidanceが付随しており、重要性の判断や他の情報ソースを参照してリスク・機会や開示情報を特定する際の例示が記載されています。なお、Illustrative Guidanceは基準の一部を構成しない位置付けとなっています。
しかしながらDraft S1に付随するillustrative Guidanceでは、実際に開示の重要性をどのように判断するのか、どのような定性的な要素(ファクター)を考慮すべきかについての議論はされていませんでした。同様に、リスク・機会の特定についても実務においてどのようにリスク・機会と開示情報を特定するのか、その際に検討すべき要素(ファクター)は何か、そしてリスク・機会の特定が重要性の判断とどう関連するのかについての議論はされていませんでした。上記の論点については、コメントレターでも、追加の適用ガイダンスの提供が求められていました。
また、複数のビジネスモデルを有する企業や既存のビジネスモデルとは適合しない事業形態を有している企業がどのようにリスク・機会や重要な情報を特定すべきかについては明確ではないという指摘もされていました。
上記を踏まえ、12月のISSB会議では以下の点に関してillustrative Guidanceを拡充する暫定決定がされています。
n リスク・機会の特定という1stステップと、当該特定されたリスク・機会についての重要な情報の特定という2ndステップの2ステップアプローチを説明する
n リスク・機会の特定に関する追加のガイダンスとして、リスク・機会の特定の際に考慮すべき要素(ファクター)や企業が取りうるプロセスを説明する
n 重要な情報の特定に関する追加のガイダンスとして、企業特有の状況を考慮してどのように重要性判断を行うか、不確実性が存在する状況でどのように重要性判断を行うかを説明する
n 複数の事業を行っている企業(コングロマリット企業)がどのようにSASB基準を適用してリスク・機会を特定し重要性の判断をすべきかを例示を用いて説明する
このillustrative Guidanceの拡充は、IFRSサステナビリティ開示基準の要求事項が抽象的であり実務においてどのように適用すべきかわかりやすいガイダンスが欲しいという関係者からのコメントや、開示についての重要性判断のガイダンスが欲しいという関係者からのコメントを受けての対応であり、上記のillustrative Guidanceの拡充は作成者の負担を軽減するものになることが期待されます。
GHG排出量についての追加の検討
12月のISSB会議では、GHG排出量についての追加の検討が行われ、以下のような暫定決定が行われています。
項目 |
内容 |
GHG emission intensity(排出原単位)の開示は要求しないことへ修正 |
Draft S2ではGHG排出量を企業の売上高や製品個数等で割った排出原単位(emissions intensity)の開示を要求していました。これは規模の大きな企業であればそれだけ絶対値としての排出量は大きくなるため、絶対値としてのGHG排出量を企業の活動量で割り活動1単位当たりのGHG排出量を求めることで企業規模の異なる企業間でのGHG排出量の効率性についての比較や同一企業の期間を通じたGHG排出量の低減効果を把握することができます。ただし、排出原単位を求めるための分母の数値は財務諸表等で公表されているのが通常であり開示の利用者でも独自に計算ができることや何を分母にするかは利用者によっても異なることから、排出原単位の開示を作成者に要求することはしない(Draft S2の当該規定は削除)という暫定決定が行われています。 |
異なる温室効果ガスへの分解情報は明示的には要求しないことを確認 |
GHGは二酸化炭素やメタンガス等7つの温室効果ガスの総称として用いられており、Draft S2では二酸化炭素以外の温室効果ガスは温暖化への影響を考慮した係数(Global warming potential, GWP)を用いることで二酸化炭素に換算したGHG排出量を求めることが要求されています(例えば、メタンは同じ質量の二酸化炭素の25倍の温暖化を引き起こすと仮定した場合、メタン4トンは二酸化炭素換算100トンとなります)。全てをCO2に換算して表すことにより比較が容易になるとともにそれぞれの温室効果ガスが有する温暖化への寄与度を数値に反映させることができます。ここで、一部の産業にとってはCO2換算後数値だけでなくこれを個別の温室効果ガスに分解した情報が利用者にとって重要になるケースがあり、そのような分解情報を要求するかが議論されましたが、今月の会議においてそのような分解情報は要求しないことが再確認されました。これはDraft S1において情報の集約と分解の規定があり、企業は重要性がある場合には情報を分解して開示することが求められており、当該原則規定でカバーされると解釈されたことによります。 |
Global warming potential(GWP)はIPCC公表の最新数値を用いることを要求 |
上記のとおり二酸化炭素以外の温室効果ガスは温暖化への影響を考慮した係数(GWP)を乗じることでCO2換算されますが、当該係数で最もよく使われているものがIPCCの公表している数値であるため、当該IPCCが公表する最新のGWPを用いる要求事項が新たに追加されることが暫定決定されました。 |
GHG排出量(スコープ1/2/3)を測定する際に使用したインプット、仮定、見積り技法の開示を要求 |
スコープ1/2/3のGHG排出量を測定するにあたっては原則としてGHGプロトコルに従うことが暫定決定されていますが(一定の状況下においてはGHGプロトコル以外も使用可能)、GHG排出量を測定する際には様々な仮定や見積りが必要となります。また、サステナビリティ開示情報の利用者の観点からはスコープ3情報を使用しにくい大きな理由として、スコープ3算定に使用した仮定が適切に開示されていないという意見が挙げられています。そのため、スコープ1/2/3を測定する際に用いたインプット、仮定、見積り技法を開示するとともに、なぜそのようなインプット、仮定、見積り技法が測定にあたり有用な情報を提供すると考えたのかを説明することを求めること、また、インプット、仮定、見積り技法を変更した場合にはその事実を開示することを求めることが暫定決定されました。どこまで細かい情報を開示するかはDraft S1の集約と分解や重要性の規定に従うとされています。 |
スコープ2の開示はロケーション基準に基づくGHG排出量の開示を要求し、マーケット基準に基づくGHG排出量の開示は明示的には要求せず、代わりに企業が実際に購入している電気等の契約についての関連する情報を開示する |
スコープ2(企業が消費した電力等についての間接排出量の開示)についてはGHGプロトコル-スコープ2において、ロケーション基準とマーケット基準の2つの基準に基づく開示が求められています。ロケーション基準とは、企業が属する特定のロケーションに対する平均的な電力排出係数に基づいてスコープ2排出量を算定する手法で、たとえ企業が再エネ電気等の系統平均排出係数よりも低炭素な電気を調達している場合であってもその効果を反映せずに算定するGHG排出量です。日本の場合は地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)において公表されている全国平均排出係数に使用した電気使用量を乗じて排出量を算定すると考えられています。一方で、マーケット基準とは、企業が実際に購入している電気の契約内容を反映した排出係数に基づき排出量を算定する手法で、企業が再エネ電気等の低炭素電気を購入していればその効果をGHG排出量に反映させることができます。GHGプロトコル-スコープ2ではロケーション基準とマーケット基準の両方を用いた排出量を開示することにより、企業が置かれた状況下でどの程度の排出削減の取組を行っているかを評価することができるとしています。今月の会議におけるスタッフの提案ではGHGプロトコル-スコープ2と同様に両方の基準に基づく排出量の開示を要求することが提案されましたが、マーケット基準に基づく排出量の開示を要求することに対してはボードメンバーから難色が示さたため、ロケーション基準による排出量の開示を求めるとともに企業が実際に行っている電気等の購入契約についての情報を別途開示することを要求する暫定決定となりました。 |
スコープ3 GHG排出量についての軽減措置
また、スコープ3についてはデータの入手困難性やデータの質についての懸念が存在することから、10月のISSB会議の検討を踏まえて、12月のISSB会議では以下について軽減措置を提供することが暫定決定されました。
項目 |
内容 |
スコープ3開示の適用時期をS2本体の適用時期よりも最低でも1年間遅らせる |
スコープ3 GHG排出量の開示の適用時期についてはS2の適用時期から最低でも1年間遅らせることが暫定決定されました。多くの企業がS2を適用しスコープ1/2の排出量についての測定がなされている状態であれば、バリューチェーンからスコープ1/2の数値を入手することは理論的に可能でありまた猶予期間内においてデータ入手の働きかけをすることが可能になります。また、SECから提案されている気候変動開示案でもスコープ3については他の開示規定の適用時期から遅れて適用することが提案されておりそれとの整合性も図ることができるとされています。スコープ3開示を他のS2開示規定から何年遅らせるかについてはS2の適用時期を決める際に合わせて決定するとされています。これはS2本体の適用時期が遅くなれば遅くなるほどスコープ3の対応に十分な時間が確保されることを意味するため、スコープ3のための猶予期間を長く取る必要性がなくなるためです。 |
バリューチェーンの測定期間が企業の報告期間と異なる場合の軽減措置 |
Draft S1ではサステナビリティ開示情報の報告期間は財務諸表の報告期間と一致している必要があり、また報告主体も財務諸表と同一とされています。ここで、スコープ3についてはバリューチェーンのGHG排出量を算定する必要がありますが、バリューチェーンがGHGを算定する際の測定期間が企業の報告期間と異なる場合の取扱い(例えば、企業の決算期が3月、バリューチェーンの決算期が12月というように両者の決算期が異なる場合)について、以下の軽減措置を提供することが暫定決定されました。 ・バリューチェーンの測定期間が企業の報告期間と異なっていたとしてもバリューチェーンの直近の測定期間のものを使用している限りそれを使用することを許容する(決算期ズレは3カ月以上も許容する)。 ・バリューチェーンの測定期間と企業の報告期間の違いは期間を通じて一定である必要がある。 ・バリューチェーンの測定期間末と企業の報告年度末の間にバリューチェーンにおいて重要な事象又は状況の変化があった場合、企業は適切に当該影響を取り込む。 上記はIAS28号における異なる決算期を有する関連会社を連結財務諸表に取り込む際の規定を一部変更したものになります。 |
スコープ3測定にあたってのフレームワークの設定 |
スコープ3 GHG排出量を測定するにあたってはバリューチェーンの排出量を直接測定する方法(direct measurement)の他、バリューチェーンの活動量(activity data)に当該活動量を排出量に転換する係数(emission factor)を乗じてバリューチェーンの排出量を見積もる方法があり、後者の方が実務で一般的に行われています。ここで、実際のバリューチェーンの特定の活動に関連するデータとして取得したものをプライマリーデータ(primary data)、インダストリー別の平均データ等で活動量や転換係数を見積もった場合をセカンダリーデータ(secondary data)に分類します。プライマリーデータを用いた測定は実際のバリューチェーンの特定の活動に関連するデータを用いているのでセカンダリーデータを用いた排出量よりも測定に関する不確実性は低いですがより手間がかかるためどちらの方法を用いるかは当該バリューチェーンのスコープ3データの重要性によるとされています。そして当該スコープ3の測定に関するフレームワークとして、測定にあたっては以下のデータを優先的に用いて測定を行うことが暫定決定されました。 ・直接測定によるデータ ・バリューチェーンの特定の活動に関連するデータ(primary data) ・バリューチェーンの活動及び排出に関する当該地域や技術を適切に反映したタイムリーなデータ ・他者により検証がされたデータ また、スタッフペーパーではIFRS13号のFVとの比較がされておりIFRS13号のFVでは観察可能なインプットを最大限用いてFVを測定する必要があるとされていますが、ここでのスコープ3の見積りについては同様の考えは適用せず、重要性等も踏まえたうえで、各種データのバランスを考えて利用者にとって適切となる見積りを行えばよくその意味で測定のフレームワークでは上記のデータを優先的に用いるとだけされています。そして、上記のデータを優先的に用いる際においては、IFRS9号の減損規定の考え方を援用し、企業にとって過大なコストや労力を掛けずに利用可能な合理的で裏付け可能な情報を用いるとされました。 |
上記測定のフレームワークに関連する開示要求 |
上記のとおり企業はスコープ3の測定においてデータの質が高いものを優先して用いる必要があるものの、それはあくまで企業にとって過大なコストや労力を掛けずに利用可能な合理的で裏付け可能な情報を用いるという条件が付けられています。すなわち例えばprimary dataを取得するのに過大なコストがかかると判断される場合には過大なコストを掛けてまでprimary dataを取得する必要はないということになります。上記のとおり企業はより信頼性の高いデータを優先して用いて測定することが要求されるものの、当該測定は企業がどのようなデータを有しているかにより変わることになるため、開示の利用者が企業の用いた情報の質を理解できるよう、以下の開示を要求することが暫定決定されました。 ・スコープ3 GHG排出量のどの程度の割合(例えば、スコープ3 GHG排出量全体の何パーセント)がバリューチェーンの特定の活動に関するインプット(primary data)を用いて測定されているか ・スコープ3 GHG排出量のどの程度の割合(例えば、スコープ3 GHG排出量全体の何パーセント)が他社により検証されたデータを用いて測定されているか ・スコープ3 GHG排出量を見積もることが出来ない場合、企業はどのようにスコープ3 GHG排出量を管理しているか 上記の使用するデータの質に関する開示要求は、上述したGHG排出量(スコープ1/2/3)算定にあたってのインプット、仮定、見積り技法の開示要求を補完するものであり、また、データの質を開示することで開示の利用者は企業がどのようなデータを用いてスコープ3の見積りを行ったか、開示の透明性を高めることができるとされています。 |
バリューチェーンに存在するリスク・機会を特定する際に参考となるガイダンスの提供(non-mandatory) |
スコープ3の測定に関してはその開示のスコープ(開示の対象に含めるバリューチェーンの範囲、GHGプロトコルにおける15のカテゴリーのうちどのカテゴリーを開示対象とするか等)をどのように決めるのかという論点があり、GHGプロトコルでは当該スコープ決定の際に考慮すべき要素としてバリューチェーンによるGHG排出量の規模や影響の程度、リスク等が挙げられています。この点IFRSサステナビリティ開示基準ではバリューチェーンに存在するリスク・機会はそれが企業自身にとってのリスク・機会となる場合は開示の対象になるとされており、このバリューチェーンのリスク・機会の開示は気候変動に限られません(スコープ3 GHG排出量の開示はバリューチェーンが有する気候変動リスク・機会に関するものですが、Draft S1では気候変動以外のバリューチェーンのリスク・機会についても同様の観点からの開示が要求されています)。今月の会議ではこのバリューチェーンが有するリスク・機会を特定する際のガイダンス(non-mandatory)をスコープ3を例示として用いる形で提供することが暫定決定されました。 |
バリューチェーンのリスク・機会の範囲を再評価するタイミングについての軽減措置 |
現状のDraft S1/S2では、バリューチェーンが有するリスク・機会の範囲については毎期再評価を行うことが要求されているように考えられますが、この点については毎期の再評価を要求するのではなく、重要な事象又は状況の重要な変化が起きた場合に限りこれら範囲の再評価を要求することが暫定決定されました。この暫定決定はスコープ3だけでなく、気候変動以外の他のリスク・機会の範囲についても同様に適用されます。重要な事象又は状況の重要な変化の例としては、バリューチェーン企業の変更が重要な場合や企業結合等による企業のビジネスモデル、ビジネス活動や企業ストラクチャーの変更が挙げられています。 |
GHGプロトコルの15のカテゴリーのうちどのカテゴリーをスコープ3算定に含めているか |
GHG排出量の算定においては原則としてGHGプロトコルに従って算定を行うことが必要です(一定の場合は、GHGプロトコル以外の算定方法も許容されます)。スコープ3に関しては、GHGプロトコルースコープ3において15のカテゴリーが設けられていますが(アップストリーム8つ、ダウンストリーム7つ)、今月の会議において、企業はスコープ3算定にあたりどのカテゴリーを計算に含めたかを、GHGプロトコルを用いていない場合であっても明らかにする必要があることが暫定決定されました。 |
Draft S2に含まれるAppendix Bの取扱いの変更
Draft S2ではSASB基準のうち気候変動に関するものをAppendix Bとしてインダストリー別開示の要求をしていましたが、Appendix B(及びSASB基準)を全世界的に適用するのは時期尚早ではないかという関係者からのコメントを受け、10月のISSB会議において、インダストリー別開示は依然として要求するもののAppendix Bを適用しなくてもよいとする(Appendix Bを基準という位置づけからnon-mandatoryなillustrative exampleへ格下げする)暫定決定が行われました。
今月のISSB会議では、上記についてDraft S2における基準の変更ドラフト案が確認されました。Draft S2では、Appendix Bはリスク・機会の特定における参照先(10項)、開示の特定における参照先(11項)、指標と目標のセクションにおけるインダストリー別の開示事項(20(b))において使用されていますが、変更ドラフト案では20(b)項を削除し、リスク・機会の特定と開示の特定のそれぞれにおいてAppendix Bを参照することを要求する(shall refer to and consider the applicability of)形に変更されることが暫定決定されました。ここでの「参照し適用可能性を検討する」というのが「適用する(apply)」とは異なっているという点は11月の会議における他の情報ソースの検討の際に確認されています。すなわち、Appendix Bのうち企業自身の判断により企業には関連がないと判断する情報は開示する必要はないということになります。
financed emissions/facilitated emissions
financed emissions/facilitated emissionsは金融機関にとってのスコープ3に該当するもので、financed emissionsとは銀行等が資金の拠出を通じて借手のGHG排出をファイナンスしている場合を指し、facilitated emissionsとは投資銀行等が資金の拠出を伴わずに金融サービスを提供することを通じて顧客のGHG排出に関与している場合を指します。Draft S2のAppendix Bには、金融の4産業(Asset Management & Custody Activities, Commercial Banks, Insurance, Investment Banking & Brokerage)に関してISSBが追加したfinanced emissions/facilitated emissionsについての開示規定がありましたが、Appendix Bがnon-mandatoryなillustrative exampleに格下げになることに伴い、これらfinanced emissions/facilitated emissionsの取扱いが議論されました。結論としては、Asset Management & Custody Activities, Commercial Banks, Insuranceの3産業におけるfinanced emissionsはDraft S2の本文(適用指針)に移動させることによりこれらの開示を正式に要求するとともに、Investment Banking & Brokerageに対して求められていたfacilitated emissionsについては現時点において広く合意された計算方法がないという理由から開示を要求しない(Draft S2の本文にも移動させない、またAppendix B自体からも削除する)ことが暫定決定されました。
上記の他、以下の点の暫定決定もされています。
n Asset Management & Custody Activitiesは顧客から預かった資金を投資しており銀行のように自己の資金を投資しているわけではないものの、資金を投資しているという点では変わりはないため、顧客から預かった資金を拠出する場合であってもfinanced emissionsという言葉を用いる。
n Asset Management & Custody Activitiesにおけるfinanced emissionsの開示要求では全ての預かり資産(total asset under management)についてのfinanced emissionsが求められているが、これを投資ストラテジーやポートフォリオ単位で分解することはそれが重要でない限りにおいて要求されない。
n Financed emissionsの計算方法については企業が採用した方法を開示すれば足り、ISSBとして特定の計算方法(例えばPCAFなど)を要求することはしない。
n Financed emissions intensityについては開示を要求しない(GHG排出量の開示においてemissions intensityの開示を削除したこととの平仄を取る)。
n Commercial BanksとInsuranceについては貸出先の産業別にグロスエクスポージャー及びfinanced emissionsの開示を要求しているが、当該産業の区分についてはGlobal Industry Classification System (GICS)の基準に従う。
n Commercial Banks及びInsuranceについては、ローンコミットメントが有る場合は未引出のローンコミットメント金額とそれに関連するfinanced emissionsを別途開示する。
n Commercial Banksにおいて貸出のリスクを低減させるための措置を講じている場合(担保の徴収、デリバティブや保険等)であってもそれらはfinanced emissions数値には影響がないと考えられるため、financed emissionsの金額はそれらのリスク低減措置を考慮する前のグロス金額で計算する。
n Commercial Banks及びInsuranceについてはCarbon-related industriesについての開示規定があったがどの産業がCarbon-related industriesに該当するかは一律に決められるものではない/時代とともに変化するため当該関連規定を削除する。
n Financed emissionsを算定する際にデリバティブを考慮することはまだ実務的に広く認められていないことから、financed emissions算定の際にデリバティブを考慮するとしたAppendix Bの規定を削除する。
なお、Scope 3 of Scope 3(被投資先のスコープ3について計算するfinanced emissions)については関係者から現時点において計算が困難であるとのコメントが出されていますが、ISSBとしてはScope 3 of Scope 3についてfinanced emissionsから除外するという暫定決定はしておらず、開示が要求されるというスタンスを取っています。今月のスタッフペーパーでも、スコープ3の開示について他のS2の開示規定よりも適用時期を遅らせる軽減措置の導入やバリューチェーンの測定期間が報告企業と異なる場合もこれを許容する規定を用いることにより懸念はある程度払拭されると考えているようです。
その他の議論
上記以外の議論として、S1/S2以降のトピックを決めるための関係者への情報提供の依頼(Request for information)において、生物多様性、人的資本、人権、IASBとの連携プロジェクト(マネジメントコメンタリー等)を含めることが暫定決定されました。これらは関係者からのフィードバックにおいて重要性が高いトピックと認識されているものになります。ISSBからのRequest for informationの公表は2023年上半期中を予定しています。