321日、SECから気候変動開示に関する提案がありました。提案は、SEC登録企業に対してSEC提出資料においてTCFD提言に類似する開示を要求するものです。

また、325日の日経新聞では、前日に開かれた金融庁におけるディスクロージャーワーキンググループの会合において、気候変動に関する開示を有価証券報告書において義務化する方向性が固まったという報道がありました。気候変動に関連する企業のガバナンスやリスク管理につての記載を、早ければ2023年度中に求めるとのことです。

SECの提案も金融庁のディスクロージャーワーキンググループの議論も、法定開示資料において気候変動の開示を要求するという点で一致しています。

SECは、法定開示資料において気候変動の開示を要求する理由として、現状の気候変動開示の大部分が法定開示資料以外のところで行われており、各社で開示の内容や開示形式が異なることにより投資家が必要な情報を入手できていない点を指摘しています。また、法定開示資料以外のところで行われている開示の多くはTCFD提言に基づいているものの、全体的に十分な開示が行われておらず、任意開示では限界があるという点も指摘されています。

SECの提案で特徴的なのは、気候変動に関連する財務影響を財務諸表の注記において開示することを要求している点です。当期の財務諸表における気候変動の影響額を気候変動のリスク毎に特定し注記することが求められており、当該注記は会計監査人の監査対象になります。加えて、スコープ1及びスコープ2GHG排出量についても第三者による保証が求められています。もう一つ特徴的な点は、気候変動のリスクについてのみTCFDに沿った開示が要求されており、気候変動にかかる機会についての開示は要求されていない点です(自発的に開示することは妨げられません)。なお、全ての開示要求事項を法定開示資料内に記載しないといけないわけではなく、他の開示資料を参照することも認められているようです(ただし、当該他の開示資料において開示が要求されるという点は注意が必要です)。

SEC提案がこのまま最終化される場合、SEC登録企業にとってはTCFDに基づく任意開示が当該提案における法定開示に置き換わっていくものと思われます。

一方で、日本における状況ですが、現状は200社ほどの日本企業が有価証券報告書や統合報告書等でTCFD提言に基づく開示を行っており、20224月以降はプライム市場上場会社に対してTCFD又はそれと同等の国際的枠組みに基づく開示が要求されています。

ここで、今回の有価証券報告書における気候変動開示の義務化は、従来はプライム市場上場会社に対してのみ求められていたTCFD又は同等の開示を、全上場会社に拡大することに等しく、非常に大きなインパクトがあるように思います。SEC提案についてもSEC登録の全企業が対象とされており、気候変動情報の重要性を考えればそれ以外の選択肢はないのかもしれません。すなわち、法定開示資料で開示を要求する、開示の対象は全企業とする、という点が重要であり、今後の気候変動開示の在り方に影響を与えるのではないかと考えられます。

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