2023年4月は、月初の臨時会議を含め2回のISSB会議が行われました。
Draft S1/S2に関しては、2023年2月末までの会議で全ての議論を終了したはずでしたが、今月の臨時会議において作成者の負担を軽減するための追加的な移行措置が決定されました。
すなわち、S1/S2を初度適用した際の1年目に関しては、気候変動に関するリスク・機会についてのサステナビリティ財務情報のみを開示すればよく、気候変動以外のリスク・機会(例えば、生物多様性や人的資本等)についての開示を免除する軽減措置が決定されました。気候変動以外のリスク・機会についてのサステナビリティ財務情報の開示は2年目以降から求められることになります(すなわち当該移行措置は初度適用年度のみに認められる)。当該移行措置は、S1/S2をいつ初度適用するかにかかわらず、S1/S2を初度適用する全ての企業に適用することが認められます。なお、当該移行措置を適用する企業はその旨を開示する必要があります。また、当該移行措置はあくまで任意のオプションなので、当該移行措置を適用しない(1年目から全てのリスク・機会の開示を行う)ことももちろん可能です。
当該軽減措置は今までのISSB会議で議論されたことはなく、関係者からの要望としても特段取り上げられてはこなかったものですが、開示1年目から全てのリスク・機会についてTCFDに沿った開示を求めることのハードルの高さがここにきて再認識されたのではないかと思われます。気候変動に関する情報は投資家から最重要と見なされているため、適用1年目は気候変動に注力することで作成者の負担を軽減するとともに企業はIFRSサステナビリティ財務情報の開示内容や開示プロセスに慣れることが期待されています。また、気候変動以外の全てのリスク・機会の開示を適用2年目以降に先延ばしすることで、企業には気候変動以外の開示について準備のための時間を与えるとともに、ISSBには気候変動以外の基準の開発の時間を与えることが意図されています。
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S1/S2の初度適用年度 |
適用2年目 |
気候変動に関するリスク・機会の開示 |
開示を要する |
開示を要する |
気候変動以外のリスク・機会の開示 |
当該移行措置を用いることで開示は不要 |
開示を要する |
S1の適用範囲 |
S2を適用する際に必要となる部分、すなわちS1に含まれる原則規定部分(重要性の判断、報告企業、財務情報との結合性、報告時期等) |
S1の全て |
なお、当該移行軽減措置を適用する場合でも、従前決定された軽減措置は依然として適用することができます。すなわち報告1年目については、開示を気候変動に絞ったうえで、さらに以下のような軽減措置を適用することができます。
n IFRSサステナビリティ財務情報の開示時期は財務諸表の公表時期と一致していなくてよい。
n 比較年度についての開示は必要ない。
n スコープ3のGHG排出量の開示は必要ない。
n GHG排出量の測定にGHGプロトコルを用いていない場合は、他の測定基準を継続使用することができる。
繰り返しになりますが、上記の軽減措置は報告1年目にだけ認められるもので、報告2年目には使用することが認められていません。報告2年目には、気候変動以外のリスク・機会の開示が新たに要求されるとともに、それ以外の移行の軽減措置も撤廃されます。
なお、S1/S2の初度適用年度に当該移行軽減措置を適用し気候変動のみの開示しかしていない場合における報告2年目における比較年度の開示については、気候変動のみの情報を比較年度の開示として行えばよいとすることも決定されました。
上記以外にも、2023年4月の通常会議では、気候変動の次に優先して議論するトピックを選定するためのアジェンダコンサルテーション(Request for information, RFI)の発行が2023年5月に行われることが決定されました。RFIでは、重点的に、生物多様性、人的資本、人権、財務報告の統合報告の4つのトピックについて、関係者への意見を聞く予定としています。コメント期間は120日間で、2023年度中にコメントの分析を行い、気候変動以外のトピックの議論を進めていくとしています。