20222月のIASB会議(Disclosure Initiative – Targeted Standards-level Review of Disclosures

20222月のIASB会議にて、20213月に公表されたExposure Draft: Disclosure Requirements in IFRS Standards – A pilot approachED)についてのフィールドスタディの結果が共有されました。コメントレターの締切りは20221月であるため、コメントレターのフィードバックを含まない、関係者からのフィードバックの共有になります。

 Disclosures Initiative – Targeted Standards-level Review of Disclosuresプロジェクトとは?

 現状の財務諸表には以下のような開示の問題(Disclosure problem)が存在しているという指摘がIASBに寄せられていました。

1.関連する情報(relevant information)が十分に開示されていない
2.関連しない情報(irrelevant information)が多く開示されている
3.財務諸表が作成者と利用者間の有効な対話の手段となっていない

 上記の開示の問題に対処し開示を改善するために、IASBDisclosure Initiativeというプロジェクトを立ち上げ、20173月にDiscussion Paper: Disclosure Initiative – Principle of Disclosure を公表し、開示の問題に対処するための方法について関係者からフィードバックを求めました。

 DPに対してコメントをした関係者のほぼ全てが、開示の問題が生じる理由の1つとしてIFRS基準の開示のつくりを指摘し、20213月公表の当該EDは、これに対するIASBの改善案として公表されたものです。EDにはIASBが将来において開示を作成する際に参考とすべきガイダンスと当該ガイダンスを現行の基準に当てはめた場合の例としてIFRS13号とIAS19号の改訂案が含まれています。

 2021年公表のEDの内容

 関連しない情報ばかりが多く開示され、本来開示されるべき関連する情報がなぜ開示されないのか。EDでは、当該開示の問題は、現行のIFRS基準における開示が、「特定の情報」を開示することを財務諸表利用者に要求する形をとっており、財務諸表作成者にとって当該開示の要求がチェックリストとして用いられているためと考えました。

 そこでEDでは、「特定の情報」の開示を要求するのではなく、開示の目的を設定したうえで、財務諸表利用者に当該開示の目的を達成する情報が何かを考えさせ、当該目的を達成するにふさわしい情報の開示を要求することにしました。

 EDのアプローチは、開示の目的を達成するにふさわしい情報を財務諸表利用者に考えさせるという意味で財務諸表利用者に判断を要求するものです。このアプローチの利点は、企業にとって重要な関連する情報のみが開示されることになるというものですが、一方で、企業がそれぞれ独自の情報を開示する場合には情報の比較可能性が損なわれるという懸念があります。両者はトレードオフの関係にあり、どちらか一方の目的を達成しようとすると、他方の目的が達成されなくなります。比較可能性を確保しつつもできる限り関連する情報だけが開示されるようにするため、EDではどの企業も最低限開示する情報を特定しました。

 フィールドスタディの結果

 20222月のIASB会議ではEDに対するフィールドスタディの結果が共有されました。EDの提案する開示の目的を設定するという点については、財務諸表作成者が重要な情報を特定するのに役に立つということで、ほぼ全ての関係者が賛成を表明しました。

 一方で、EDの提案する開示の目的を達成する情報を企業自身が特定し当該情報を開示するというアプローチについては賛否が分かれました。

 反対する人の意見としては、EDのアプローチは開示すべき情報を企業自身に判断させるものであり、理論的には正しいアプローチと分かっていても、実務上このアプローチを取るのは難しいと考える人が多いように思われます。監査人や規制当局への説明を考えても、新しいアプローチへ変更することは実務上難しいと考える企業も多いようです。

 なお、現行のIFRS基準においても、IAS1号において、重要でない情報を開示することによって重要な情報を埋没させてはならないとされており、特定のIFRS基準において情報の開示要求がなかったとしても必要な情報は開示しなければならないとされています(IAS1.30A, 31)。多くの企業がIAS1号を正しく適用していれば開示の問題は生じていないはずなのですが、現実は開示の問題が生じており、当該開示の問題を解決するためには何らかのアクションが必要ということでIASBはこのプロジェクトを開始しました。

財務諸表利用者における開示の取り組みについてもばらつきがあり、たとえば上記のIAS第1号の規定をすでに正しく適用している企業にとっては、今回のEDの影響はほとんどないという報告もされています。一方で、現状のIFRSの開示の要求をチェックリストとして用いてきた企業にとっては、今回のEDが導入される場合には新たな判断を要求され負担が増えるということで反対しているという面もあるようです。

 今後の会議では、コメントレターの分析結果が共有され、プロジェクトの方向性について議論がされる予定です。引き続き今後のプロジェクトの方向性について注意深く見守っていきたいと思います。