FICEプロジェクトの現在の状況

FICEプロジェクトとは

 現在、IASBにてIAS32号「金融商品:表示」を改訂するためのプロジェクト(Financial
Instruments with Characteristics of Equity,
いわゆるFICEプロジェクト)が進められています。

 IAS32号は金融商品の発行者として負債と資本を分類する基準ですが、資本と負債の両方の特徴を持つような複雑な金融商品についてはIAS32号がうまく対応できていないという問題があり、IAS32号を改訂するプロジェクト(FICEプロジェクト)が始まりました。現在の状況は、2018年に公表されたDiscussion Paperに対するコメントを受け、実務上の課題の解決にフォーカスして議論を継続中です。一通りの議論が終わった段階で公開草案の公表が予定されています。現在までの議論の過程についてのより詳しい説明は2022年2月のIASB会議の解説をご参照ください。

2022年3月のFICEプロジェクトの議論

再分類についての論点の所在

 IAS32号において金融商品の発行者は、当初認識時において、契約条件の実質に基づき、当該金融商品を(又はその構成要素を)金融負債、金融資産、資本に分類するとしています(IAS32.15)。

 一方で、IAS32号においては、非常に限定的な状況においてのみ適用されるプッタブル金融商品等を除き、当初認識後の再分類(reclassification)についての規定がありません。IAS32号に再分類についての規定がないことが実務におけるばらつきを生じさせており、FICEプロジェクトにおいて解決すべき実務上の課題として認識されています。

 実務において、負債と資本の再分類が問題となるケースは以下のような場合です。

(a)金融商品の契約条件の変更を行った場合

(b)金融商品の契約条件自体の変更は行っていないが、契約条件の実質が変更された場合。たとえば以下のようなケースが該当します

(i) 機能通貨が変更された場合や子会社の支配を喪失した場合

(ii) 時間の経過によりオプションの満期が到来した場合や契約条件に従来存在していた変動性が固定された場合

 上記(a)の金融商品の契約条件が変更されるケースは今回の議論の対象とはされていません。その理由は、金融商品の契約条件が変更された場合の会計処理はIFRS9号に規定されており、IAS32号を改訂するFICEプロジェクトの対象範囲としては相応しくないためです(厳密には、IFRS9号において扱われている条件変更は、金融資産と金融負債に対して行われる条件変更についてのみであり、資本に対して行われる条件変更はIFRS9号でも取り扱われていません)。

 したがって今回の議論の対象は、上記(b)の契約条件自体の変更は行っていないが、契約条件が実質的に変更された場合についてであり、当該状況において負債/資本を再分類すべきかが議論されました。当該論点はBig4の会計事務所が公表しているIFRSマニュアル本においても見解にばらつきがあり、FICEプロジェクトで取り上げる価値がある論点とされています。

 上記(b)の契約条件自体の変更は行っていないが、契約条件の実質が変更されている場合の例として、スタッフペーパーでは以下のような状況が記載されています。

   (a) 時間の経過-たとえば

(i) 一定期間の経過後は、ワラントの保有者が発行者の株式を固定価格で購入できるようになるワラント

(ii) 一定期間の経過後は、条件付対価として渡す自社株式の株数が固定されるような条件付対価。

(iii) 金融商品に付されたプットオプション(行使により発行者の現金を受領できる)が一定期間経過後は消滅するような当該金融商品。

(iv) 一定期間の間に生じる不確実性の存在に基づき分類がされた金融商品。

(b)  発行会社の機能通貨の変更-例えば、発行会社が固定対固定の要件を満たすワラントを発行し、発行会者は当該ワラントを当初認識時に資本に分類した。その後、発行会社の機能通貨が変更され、ワラントが行使された際に発行会社が受領する現金が発行会社の機能通貨ベースで固定されなくなるようなケース。逆のケースもある。

(c) 発行会社の連結グループの変更-例えば、親会社が子会社の固定数の株式と固定額の現金を交換するワラントを発行し、親会社の連結財務諸表において当該ワラントを資本に分類した。その後、当該子会社が親会社の連結グループから外れ、ワラントが固定対固定の要件を満たさなくなるようなケース。逆のケースもある。

(d)   他の金融商品とリンクしていた金融商品について、リンクが外れた場合-例えば、ある金融商品の利息の支払いが、他の金融商品の利息支払いにリンクしていた場合において、当該他の金融商品を売却等したことによりリンクが外れるようなケース。

(e) 法律又は規制が変更された場合-202112月のIASB会議において、当初認識時における負債と資本の分類決定においては、当該時点において有効な法律又は規制のみを考慮して(つまり将来の法律又は規制の変更を考慮せず)、金融商品の分類を決定することを暫定決定している。したがって、当初認識以後に法律又は規制が変更された場合は、上記と同じ論点が生じる。

 IAS32号において、金融商品の分類は、契約条件の実質により決定するとされており、分類を決定するにあたっては契約書に実際に記載されていること以外の要素も含めて検討する必要があります(IAS32.15)。したがって、契約条項自体は変更されていなかったとしても、分類に影響を与える他の要素が当初認識以後変更される場合、再分類をしなくてよいのかという論点が生じるというわけです。

再分類についてのスタッフ提案

 スタッフペーパーでは、この契約条件自体の変更を伴わない契約条件の実質的な変更の会計処理として、2つの案が提出されています。会計方針の選択は実務のばらつきを容認することになるため妥当ではないという立場を表明しています。

 アプローチA - 再分類を禁止する。

アプローチB - 再分類を要求する。

 今回のIASB会議においては、ボードメンバーからのコメントを聞くのみで、どちらのアプローチを取るかの暫定決定はしていませんが、多くのボードメンバーはアプローチB(再分類を要求する)を支持していたようです。再分類を行う方が期末日における状況を反映する情報を提供できるという点が主な理由のようです。将来のIASB会議においては、再分類を行うタイミングや再分類時の会計処理、開示についても議論を行うとしています。

 なお、今回のスタッフペーパーでは、認識の中止と再分類の違いについてのスタッフ見解も紹介されています。金融負債の認識の中止はIFRS9号において扱われており、IAS32号においては認識の中止は議論されていません。IFRS9号において金融負債の認識の中止は、義務が消滅した場合又は実質的な契約条件の変更があった場合において行うとされています。契約条件の実質的な変更による再分類という今回の論点は、既存の金融商品は認識されたままであくまで分類が変更されるという話であり、認識の中止とは異なるという点が説明されています(それゆえIAS32号の話であり、FICEプロジェクトの範疇であるという説明です)。

 再分類の論点については、次回以降のIASB会議で継続協議される予定ですので、追って内容についてご報告させていただきます