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IFRS第9号のPIR
PIR(Post-implementation Review:適用後レビュー)とは、新基準の適用があった場合や既存の基準について大きな改訂があった場合において、新基準の適用又は改訂の数年後に、当該基準又は改訂が実務において想定通りに適用されているかを確認するプロセスです。
IFRS第9号『金融商品』はIAS第39号『金融商品:認識と測定』を置き換える形で2018年1月1日以後に開始する事業年度から強制適用がされています。IAS第39号からIFRS第9号への変更は、①分類と測定、②金融資産の減損、③ヘッジ会計に大きく分けることができ、IFRS第9号のPIRは①分類と測定から開始されています。具体的には、2021年9月に情報要請(Request for Information)として関係者からの意見募集が行われ、2022年1月末にコメントが締め切られました。
IASBは、情報要請に対して寄せられたコメントに対しての分析を行い、PIRの最終成果物としてレポートを発行する予定です。最終レポートには、教育文書の発行や基準改訂のための新たなプロジェクトの設定等、次のステップが含まれるとしています。
なお、上記②金融資産の減損及び③ヘッジ会計についても、順次PIRプロセスを開始する予定としています。
2022年3月のIASB会議の議論
2022年3月のIASB会議では、IFRS第9号の分類と測定の情報要請に対して寄せられたコメントについての全般的なフィードバックが行われ、特定の論点については明確化等の対応が必要ではあるものの、全般的にはIFRS第9号は基準設定時の意図したとおりに適用されているということが確認されました。
個別論点に対して寄せられた詳細なコメントについては、4月以降のIASB会議で共有・議論されていく予定です。各論点のスケジュールは以下のとおりで、2022年9月までの半年間で分類と測定のPIRの議論を終了させる予定が組まれています。
議論するトピック |
議論する時期 |
1. 金融資産の契約上のCF(サステナビリティ・リンク金融商品、契約上リンクした金融商品) |
2022年4月~5月 |
2. ビジネスモデルテスト |
2022年4月~9月 |
3. 資本性FVOCI金融商品 |
2022年4月~9月 |
4. 契約上のCFに対する条件変更 |
2022年4月~9月 |
5. 償却原価計算と実効金利法 |
トピック4と同時 |
6. その他の論点 |
2022年7月~9月 |
3月のIASB会議でもサステナビリティ・リンク金融商品のSPPI判定についてコメントするボードメンバーが多く、実務における重要性が高いということで、早速4月から議論を開始するようです。サステナビリティ・リンク金融商品のSPPI判定は保有者サイドの論点ですが、発行者サイドの会計処理としては自身のESG活動に応じて利息が変動することになるため、この部分の変動性をどのように会計処理すべきかが問題となります(保有者サイドについても、SPPI要件を満たして償却原価法で会計処理される場合には同様の論点が生じます)。同様の論点が直近のIFRICでも議論されており(TLTROⅢ)、その関連性からか、この償却原価法の適用について指摘するボードメンバーも多い印象でした。
今回のPIRで取り上げられている論点は、実務で問題になる論点ばかりであり、今回の議論を受けて現状のIFRS第9号の実務が変更される可能性もあります。加えて、IFRS第9号は私が最も深く関与してきた思い入れのある基準でもあり、今回取り上げられている論点の中には私自身がロンドン赴任時に検討していた論点も含まれています。そのような意味からも、今後半年間の議論からは目が離せません。