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前回までのおさらい
現在、IASBにてIAS第32号「金融商品:表示」を改訂するためのプロジェクト(Financial
Instruments with Characteristics of Equity, いわゆるFICEプロジェクト)が進められています。
2022年3月のIASB会議では、条件変更を伴わないで契約の実質が変更された場合の再分類の論点-金融商品の発行者は、当初認識時に決定した負債と資本の分類について、契約条件自体に変更は起きていないが、契約の実質が変更された場合において、変更後の現在の状況に基づき負債と資本の再分類を行うべきか-が議論されました。
金融商品の発行者は当初認識時において金融商品を負債、資本、混合契約のいずれかに分類しますが、分類にあたっては、金融商品の契約条件を考慮するとともに、その時点における事実と状況を勘案します。例えば、金融商品発行時における法律・規制の状況、発行者の連結グループの状況、発行者が発行している他の金融商品、発行者の機能通貨などです。
当初認識時の分類にあたって前提としたこれらの事実と状況がその後変化し、仮に今、同じ金融商品を分類していたとしたら当初の分類と異なる分類になる場合(負債→資本や資本→負債)、企業は当初の分類を変更(=再分類)すべきでしょうか。IAS第32号には当該論点についてのガイダンスがなく、実務にばらつきが生じているということで、FICEプロジェクトで解決すべき論点とされています。
2022年3月のIASB会議では、再分類が起きる場合における事実と状況の変化としてどのような例があるのかが議論されるとともに、再分類を禁止すべきか、又は再分類を要求すべきかが議論されました。実務のばらつきをなくすという目的から、会計方針の選択は認めないという方向で議論がされ、3月のボードメンバーの意見としては、再分類を要求すべきとする意見が多いものでした。
より詳しい論点の説明については2022年3月のブログ記事をご参照ください。
再分類に対するアプローチ
2022年6月のIASB会議では、2022年3月の再分類の議論を受けて、再分類の方針についての暫定決定が行われました。具体的にはスタッフは以下の3つの案を提示しました。
n アプローチA:現行のIAS32号で要求されている再分類(プッタブル等)を除いて、再分類を禁止する(現行基準以上の再分類を認めない)。
n アプローチB:条件変更を伴わないで契約の実質が変更された場合の全てのケースにおいて、再分類を要求する。
n アプローチC:契約条件に含まれていない事実と状況の変化により契約の実質が変更された場合にのみ、再分類を要求する(契約条項に含まれている条項や条件が変化したことによっての再分類は行わない)。
3月のIASB会議では、再分類を禁止すべきか、要求すべきかのみが議論されていたため、アプローチBとアプローチCの区別はされていませんでした。
アプローチBでは、契約条件の中に含まれている条項(条件)が変化した場合であっても再分類を要求することになります。例えば、自社株式についてのデリバティブを発行している場合において、当初認識後ある一定時点までは固定対固定要件は満たされないが、ある時点以降は自社株式と現金の交換条件が固定化されることにより固定対固定要件を満たす場合、当該時点以降は当該デリバティブを資本に再分類することが要求されます。一方で、アプローチCでは、もともと契約条件に含まれている条項が変化することによって再分類は起きないと考えるため、上記の例では、デリバティブを資本に再分類することはしません。
結論からいうと、6月のIASB会議ではアプローチCが前提決定されました。主な理由としては以下のような説明が考えられます。
アプローチBは、金融商品の契約条件の中に含まれる条項(条件)が変化するだけで再分類が起きてしまいます(すなわち、時の経過だけにより、再分類がされてしまう)。その結果、金融商品が存在している期間において、負債から資本、資本から負債への再分類が頻繁に起きる可能性があります(特に自己株式のデリバティブ)。ここで、IFRS9号における金融資産の再分類は、ビジネスモデルが変化した場合にのみ行われ、金融商品の契約条件が途中で変化した場合であってもSPPIの再判定は行われません。アプローチCはこのIFRS9号の金融資産の再分類の考え方と整合しており、再分類は、金融商品自体のレベルの変化では起きないとするものです(もっと高いレベルでの変化が起きた場合にのみ再分類を行う)。
また、アプローチBは個別の金融商品レベルで再分類が起こり得るため、再分類をすべきか否かをモニターする必要があり、労力を要します。一方で、アプローチCはアプローチBに比べて再分類が起きる頻度は低く、発行者にとっての負担は少なくなります。
ただし、アプローチCの、「契約条件に含まれない事実と状況が変化する場合」とは具体的にはどういう状況が該当し、どういう状況が該当しないのかについては必ずしも明確ではないように思うので、今後の議論になるのではないかと思います。
再分類時の会計処理
再分類時の会計処理としては、負債から資本に再分類される場合と、資本から負債に再分類される場合の2つのケースを考える必要があります。実務では、再分類時の会計処理と認識の中止時の会計処理が明確化されていないように思うのですが、6月の会議では以下のとおり暫定決定がされました。
(1) 負債から資本に再分類される場合:負債の帳簿価額をそのまま資本に振り替える。帳簿価額をそのまま振り替えるため、振替時に差異は生じない。
(2) 資本から負債に再分類される場合:負債の当初認識は公正価値で行われるため、資本の従前簿価と負債の公正価値に差異が生じるが、当該差額は資本で認識する。これは、資本の消滅時には損益は発生しないとする考えからです。
再分類を行うタイミング
再分類を行うタイミングとしては、以下のとおり、いくつかの選択肢が考えられます。
(1) 事実又は状況の変化が起きたそのタイミング
(2) 事実又は状況の変化が起きた期の期末
(3) 事実又は状況の変化が起きた期の翌期首
6月の会議では、(3)は排除され、(1)又は(2)のいずれかは明確な結論は出さずに事実又は状況の変化が起きた期において行うということで暫定合意がされています。(1)になるか(2)になるかにより、負債としての会計処理を止める(又は始める)タイミングが変わってきますが、あまり重要性はないとも考えられます。
ということで、再分類についての議論は今月で終わりです。再分類の論点についてはIAS32号にガイダンスがないため、各ファームで解釈により会計処理を決めていました。上記の暫定決定においては、再分類されるケースとされないケースが生じるため、まだ検討されていない論点が今後生じるのではないかと思いますが、一定の方向で整理ができたのはよかったと思います。