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プロジェクト経緯
ESG特性を有する金融資産のSPPI判定、及び、契約上リンクする金融商品(Contractually linked instruments, CLI)とノンリコース金融商品の区別については、IFRS9号の分類と測定のPIRにおいて、多くの関係者からIFRS9号の明確化が必要であるという意見が出されました。これを受け、2022年5月のIASB会議において、当該2論点に関して、IFRS9号の要求事項を明確化する基準設定の議論を開始することが決定されました。
両者の論点については2022年4月のIASB会議(分類と測定のPIR)で詳細を説明していますので、そちらもご参照ください。
ESG特性を有する金融商品についてのSPPI判定
ESG特性を有する金融商品に対するSPPI判定の現在の実務(Big 4のIFRS本による)は、例えば、債務者があるESG条件を充足したことにより、金利(利率)が減額される場合、当該債務者のESG条件の充足が債務者の信用リスクを低下させるものかを判断し、ESG条件の充足と信用リスクの整合性を説明できる場合にのみ、SPPIを満たすと判断しています。つまり、金利が変動した直接の理由は債務者がESG条件を充足したからですが、当該債務者のESG条件の充足を債務者の信用リスクの変動と紐づけ、債務者によるESG条件の充足→債務者の信用リスクの低下→金利を減額という説明ができる場合にはSPPIを満たす、という判断をしています。この場合の問題点は、債務者のESG条件の充足の有無が債務者の信用リスクの変動とリンクしない場合があることで、この場合にどのようにしてSPPIを満たすと説明できるのか(もしくはできないのか)が論点になっていました。
2022年7月の会議では、この点に関するスタッフの見解が明らかにされました。
スタッフ見解によれば、ある条件の発生(又は不発生)により金利が変動する場合、SPPI判定にあたっては、当該条件の発生(又は不発生)を特定の金利項目(リスクフリー、信用リスク、利益等)の変動と紐づけて分析する必要はない、というものです。つまり、SPPI判定においては、貸手は自分が受け取る金利が何に対する補償として受け取っているのかを全体的に分析すればよく、金利の中に含まれる特定の項目(リスクフリー、信用リスク、利益等)が当初それぞれいくらであるか、金利が変動した場合に当該変動部分が金利のどの項目に関連して変動しているのかを分析する必要はない、というものです。
スタッフ見解によれば、ESG特性を有する金融商品のように、ある条件(contingent event)により金利の額やタイミングが変動する場合のSPPI判定にあたっては、以下を検討するとしています。
n 金利が変動する前と後の契約上のCFがSPPIを満たすか
n 当該条件(contingent event)は借手に特有のものか、及び、契約書に規定されているものか
n 契約上のCFは、特定の資産への投資又は特定の資産のエクスポージャーを負うことに該当しないか
上記のスタッフ見解に基づけば、ESG特性を有する金融商品のSPPI判定は、基本的には、SPPIを満たすということになるように思われます。これはかなり画期的な考えと思います。
CLI vs ノンリコース
すでに2022年4月のIASB会議で、CLIとノンリコースを区別する最大のポイントは、アセットプールが十分なCFを生み出せない場合において契約上のCFが減額されるのがCLIの特徴であるということが明らかにされていました。今月の会議では、特段新しい情報は提供されていないと思います。スタッフ見解によれば、CLIが適用されるのは以下の状況であるとしています。
n ノンリコースの特性を有している(返済の原資はアセットプールの中の資産に限定されている)
n 契約上リンクした複数の金融商品が存在する(CLIへの投資家は、他のCLIとの関係性(返済順位等)を理解している)
n ウォーターフォール構造を有している(アセットプールが生み出すCFはシニア持分から順に返済されていく。シニア持分が負う信用リスクは低く、ジュニア持分が負う信用リスクは高い。結果として、ジュニア持分からシニア持分への信用リスクのプロテクションの提供が行われている)
n アセットプールが十分なキャッシュフローを生み出せない場合、契約上のCFの減額が行われる(この点は、他のノンリコース金融商品と異なっている。他のノンリコース金融商品では、契約上のCFの減額は行われない)。
今後のプロセス
今後のIASB会議においては、CLI vs ノンリコースについてのより詳細の議論が行われる予定です。