20229月のIASB会議

 20229月のIASB会議では、自己の資本(株式)を取得する義務を含むデリバティブについての暫定決定がされました。当該論点についての詳細は20227月のFICEプロジェクトについてのブログ記事に記載をしていますのでそちらをご参照ください。

 IAS 32号の原則を大きく書き換えることなく、IAS 32号の規定の明確化を図ることで実務上の論点を解決するというFICEプロジェクトの目的に照らし、以下の点についてIAS 32号を明確化する改訂が暫定決定されました。

 n  IAS 3223項の金融負債のグロス計上の規定は、変動数の自己の資本(株式)を引き渡す場合をも含むことを明確化する。IAS 3223項においては、当該デリバティブの説明において、現金又は金融資産を相手に引き渡す義務がある場合のみが規定されており、変動数の自己の資本(株式)を引き渡す義務がある場合についても同様に金融負債のグロス計上が要求されるのかが明確ではなかった。

n  IAS 3223項の規定は、自己の資本(株式)を受け取る代わりに現金等を引き渡す取引(つまりグロス決済がされる取引)についてのみ適用され、当該デリバティブ(の勝ち負け)が現金でネット決済される場合や、株式でネット決済される場合には、グロス金融負債の認識は行われない。

n  IAS 3223項の規定を適用し、金融負債をグロス計上する際の借方科目が問題となるが、取得対象株式がNCIの場合はNCI以外の資本科目(=報告企業の資本勘定)を用い、取得対象株式がNCIではない報告会社の株式である場合は資本金以外の資本科目(=報告企業のother equity)を用いる。ただし、親会社が当該取得対象株式の現在の権利を既に獲得している場合には、取得はすでに起きたものとみなして、NCI又は資本金を減額する。

n  プットオプションが行使されずに失効した場合、当初認識時のグロス金融負債と資本科目をリバースする必要があるが、リバースする際の資本科目は当初認識時と同じ資本科目を用いる。

n  グロス金融負債の事後測定はIFRS 9号の対象となり、事後変動は資本ではなくPLで認識される。そして、プットオプションが失効した場合には、PLで認識されていたグロス金融負債の事後変動はリバースされることはない。

n  IAS 3223項が適用される)自己の資本(株式)を取得する義務を含むデリバティブがグロスベースで会計処理される理由は、将来の企業の純資産の減少についての情報を提供することを明確化する。

 上記の暫定決定については基本的に20227月のIASB会議で議論されたものです。1点細かい点ですが7月の議論から変更されているのが、グロス金融負債を計上する際の借方科目としてNCIや資本金を用いないというのが、デリバティブが未行使の段階で企業が対象企業株式の現在の権利を有していない場合という条件が付いたくらいかと思います。すなわち、デリバティブが行使されていない時点においては、通常、NCI等は子会社等に対する所有の権利を保持していると考えられますが、仮に、デリバティブが行使されていない段階においても、NCI等が子会社等に対する所有の権利を失っており(企業の側からすれば当該権利を既に取得しているのであれば)、借方科目はNCI等を直接減額するということになります。

 NCI(や資本金)を直接減額させない会計処理も、デリバティブが存続している状態においては、親会社とNCIの相対的な持株比率に変動は起きておらず、IFRS 10号の資本所有者との取引(=資本取引)には該当しないという見解が示されています。