2022年11月のIASB会議では、契約上リンクした金融商品(CLI)のスコープを決めるにあたっての追加の論点が検討されました。
CLIが適用される要件としては、2022年9月のIASB会議において、以下の全ての特徴を有する場合はCLIを適用することを暫定決定しています。
(a) 複数の契約上リンクした金融商品(multiple contractually linked
instruments)が用いられている
(b) ノンリコース特性を有している
(c) ウォーターフォール構造により、資産プールで発生したCFの分配が行われる
(d) ウォーターフォール構造によるCFの分配により信用リスクの集中が行われ、CFが不足する場合には、契約上の権利が不均等に削減される。
今月の会議では、実務で一般的に行われているSPEを使ってのアセットレンディングのストラクチャーとCLIの関係が議論されました。SPEを使ってのアセットレンディングのストラクチャーでは、オリジネーターが対象資産SPEに売却し、SPEは購入代金を銀行からの借入により調達します。ただし、このようなスキームでは一般的に銀行が負担するリスクを抑えるためSPEはオリジネーターに劣後持分を発行し、対象資産から生じる損失のうち一定額は当該劣後持分が負担することにし、それを超える損失が発生する場合には銀行が負担する仕組みになっています。当該劣後持分はSPEにとっての資本として発行されることもあれば劣後負債として発行されることもありますが、当該劣後持分はSPEに生じる一定額の損失を最初に負担することになるため、劣後持分から銀行持分へ信用リスクの補完が行われています。このようなスキームにもCLIの規定は適用されるのでしょうか。
オリジネーターが劣後持分の追加投資を要求される又は対象資産の追加を要求されるケース
今回の暫定決定の対象にはなっていませんが、スタッフペーパーでは、対象資産が生み出すCFや対象資産の価値が低下した場合においてこれを補うため、オリジネーターが劣後持分を追加で拠出することを要求されたり又は資産(Cashなど)を追加でSPEに拠出することを要求されるようなケースはノンリコースの性質を有さないため(銀行の請求先が対象資産に限定されていないため)CLIの規定は適用されないとされました。
オリジネーターの有する持分はCLI判定から除外して検討
上記のとおり、CLIが適用されるためには複数(2つ以上)の契約上リンクした金融商品が用いられている必要がありますが、今月の会議では、オリジネーターが有する持分については除外して判断するという暫定決定がされました。これは、オリジネーターが有する持分が資本であっても劣後負債であっても同様に適用されるとしています。
理由としては、オリジネーターはSPEに対して投資をしている投資家ではないためとしています。SPEは資産を保有するだけのハコであり、その実質はオリジネーターが支配していると考えられ、オリジネーターは対象資産を売却するために当該ストラクチャーを使っています。そのためオリジネーターは銀行にとっての最終的な取引相手先であって(銀行から見るとSPEをルックスルーするとオリジネーターが存在する)、銀行と同種の投資家ではないという考えが示されています。また、オリジネーターはSPEを連結することになるため、SPEが連結される場合は劣後持分が消滅し、銀行からの貸付のみが残ることになるため複数のリンクした金融商品が前提となるCLIは適用されないとしています。ただしこのようなアセットレンディングスキームであっても、オリジネーターの持分を除外してもなお複数の契約上リンクした金融商品が存在する場合には、CLIが適用されるかの検討が必要になってきます。
公開草案の作成
2022年3月から開始されたIFRS 9号の分類と測定のPIRプロジェクトですが、今月の会議をもって必要な審議が終了し、今後は公開草案を作成するプロセスに入ります。公開草案は以下の改訂を含み、コメント期間は120日になりました。ESG特性を有する金融商品を意図した契約上のCFの金額とタイミングが変更される場合のSPPI要件の適用方法の明確化とそれに付随する追加の開示、ノンリコースとCLIの区別の明確化、FVOCIオプションを採用した場合のIFRS 7号の開示の改訂、電子決済システムを用いた金融負債の認識の中止について決済前にも認識の中止を許容する改訂。それぞれの内容は過去のブログ記事で解説していますので、ご参考ください。