202212月のIASB会議(FICEプロジェクト)では、IAS32号で資本に分類された金融商品の表示の論点と自己のパフォーマンスや純資産に連動する支払義務を有する金融負債の表示の論点が議論されました。

 IAS32号で資本に分類された金融商品の表示

 金融商品の発行者はIAS32号に基づき発行した金融商品の分類(資本/金融負債/混合契約)を行います。IAS32号では普通株式以外にも資本に分類されるケースがあります。例えば、契約上は利息や元本の支払いが規定されているものの発行者の裁量により利息や元本の支払いを無期限に延期又はキャンセルすることができる金融商品は金融負債の定義に該当せず資本に分類されます(利息や元本の支払いは発行者の義務ではなくあくまで権利として規定されることにより、IAS32号の資本に分類されることを意図した金融商品が存在します)。また、自己の資本を基礎数値に持つデリバティブ(例えば新株予約権)についてもIAS32号の固定対固定の要件を満たす場合にはIAS32号で資本に分類されます。

 上記の永久劣後債は金融商品の分類としては資本に分類されますが、普通株式とは異なる性質を有することになります。また、資本に分類されるデリバティブは普通株式とは当然異なっています。このように普通株式と普通株式以外の資本性金融商品では有する権利が異なりますが、その違いが適切に情報として開示されないという問題が指摘されていました。これは資本については事後の会計処理(事後測定)が行われず、IFRS 7号の開示も十分に対応していないという問題に起因しています。

 ある金融商品が資本に分類される場合、当該資本については事後の会計処理は行われず、結果として収益と費用の差額(残余)である当期利益が資本提供者の取り分となります。ただし、異なる種類の資本性金融商品が存在する場合は、当該当期利益は当該資本性金融商品全体に帰属することになり、普通株式に帰属する金額と普通株式以外の他の資本性金融商品に帰属する金額は明らかではありません。2018年のFICEDPではこのような普通株式に帰属する価値と普通株式以外の他の資本性金融商品に帰属する価値を明確化するため、当期利益を異なる資本性金融商品の間で按分することが提案されていました。

 当該按分の提案に対する関係者からのフィードバックとしては、資本に分類される非デリバティブと資本に分類されるデリバティブで異なる反応があったようです。非デリバティブについてはそこまでの反対意見はなかったものの、表示による按分ではなく開示で必要な情報を出せば足りるという意見が多かったようです。一方で、資本に分類されるデリバティブについては、将来の(潜在的な)資本性金融商品の保有者に対して現在の利益を按分することは権利の無い者に対して現在の利益を按分することになり妥当ではないとして多くの反対意見が寄せられました。すなわちデリバティブに分類される資本性金融商品についても表示による按分ではなく開示を拡充することで情報を提供すべきというコメントが大多数でした。

 さて、今月のIASB会議(FICEプロジェクト)では、上記の過去の経緯(FICE DPに対する関係者からのコメントの多くが資本についての情報提供は開示で対応すべきと考えていること)や、IAS1号や現在進行中の基本財務諸表プロジェクトにおける要求(重要性がある場合は資本についてより細分化して開示することが要求されているように考えられる)、すでにFICEプロジェクトで暫定決定した追加の開示(金融商品の重要な条件についての開示、特に資本に分類される金融商品の中に含まれる金融負債の性質(debt-like feature)の内容の開示や負債か資本かの分類の決定に至った条件の開示、さらに普通株式が希薄化する程度についての開示)を踏まえ、資本性金融商品の表示については特段の変更は行わないというスタッフ提案が議論されました。

 IASB会議では、IAS1/基本財務諸表プロジェクトの原則規定でカバーされているから特段の対応はしないというスタッフ提案に反対のボードメンバーが一定数いたため、スタッフ提案に対する評決は行われませんでした。今後のIASB会議においては財政状態計算書における資本の内訳開示や株主資本変動計算書における普通株式以外の他の資本性金融商品に対する支払い(配当)の別掲等が議論されることになるものと思われます。

 自己のパフォーマンスや純資産に連動する支払い義務を有する金融負債の表示

 資本の表示に続き、自己のパフォーマンスや純資産にリンクする支払い義務を有する金融負債の表示についての議論がされました。ここでの議論の対象は、発行企業の支払義務となる金額が発行企業の公正価値や純資産(要は発行企業の資本に類する金額)の変動に連動するような金融負債です。このような金融負債は、発行企業の公正価値(純資産)が増加すると負債として支払う金額が増大し、逆に発行企業の公正価値(純資産)が減少すると負債として支払う金額が低下するため、企業の業績が良い(悪い)場合に費用が大きく(小さく)なり、直観に反する(counter-intuitive)という意見やPLが企業の本来の業績を表さなくなるという意見があります。2018年のFICE DPでは、このような金融負債について、BSでは別掲が提案され、帳簿価額の変動はPLではなくOCIで表示することが提案されていました。FICE DPに対するコメントは賛成と反対で意見が分かれましたが、帳簿価額の変動をOCIで認識することに対しては多くの反対意見が寄せられました。

 今月の会議では、上記の過去の経緯を踏まえ、またIAS1号や基本財務諸表プロジェクトにおける表示についての原則的な取扱いや既に行われたFICEプロジェクトの暫定決定(金融商品の重要な条件についての開示、特に負債に分類される金融商品の中に含まれる資本の性質(equity-like feature)の内容の開示や負債か資本かの分類の決定に至った条件の開示)に基づき、このような金融負債について、BSPLでの別掲は行わないものの、このような金融負債がFVTPLに分類される場合は再測定されることにより当期中にPLで認識された金額を別途開示することが暫定決定されました。