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はじめに
今月のIASB会議では、今までのFICEプロジェクトの中で暫定決定されてきた事項に関連して、いくつかの細かな点が議論/暫定決定されました。
固定対固定要件
自己の資本性金融商品を基礎数値に持つデリバティブが発行者にとっての資本となる要件である固定対固定要件は、以下の場合において満たすことが暫定決定されています。
(1) 発行者の資本性金融商品1単位当たりについて、発行者が受け取る発行者の機能通貨建て金額が固定されている場合(ただし一部例外的な状況において変動することは許容されている)
(2) 自己が発行する資本性金融商品が別のタイプの自己の資本性金融商品と交換される場合、交換される株式数が固定されている場合
上記(1)については例えば、発行者が100株の自己の株式を相手に渡し相手からCU 110を受け取る場合と、50株の自己の株式を相手に渡し相手からCU55を受け取る場合があり得る場合、1株式当たりの受け取る金額がCU 1.1であり固定されているため固定対固定要件を満たすと考えるものです。反対に、事象Aが起きた場合に発行者は自己の株式を100株渡し相手からCU 100を受け取るが、事象Bが起きた場合には発行者は自己の株式を75株渡し相手からCU 90を受け取る場合、1株式当たりの受け取る金額が固定されていないため(事象Aの場合はCU 1だが事象Bの場合はCU1.2)固定対固定要件を満たさないとされています。
上記(2)については例えば、発行者(親会社)と第三者との契約において、発行者(親会社)の普通株式100株と発行者(親会社)の子会社の普通株式200株を交換する場合において、当該デリバティブが発行者(親会社)の連結財務諸表において資本になる場合が該当します。
今月のIASB会議で議論された論点は、転換社債に含まれる転換権が行使されることにより、発行者(親会社)の普通株式もしくは当該親会社の子会社の普通株式のいずれかに転換できる場合において、当該デリバティブが発行者(親会社)の連結財務諸表上、資本に分類されるかというものでした。例えば、転換社債の保有者が転換権を行使することにより、親会社株式100株あるいは子会社株式200株を受け取ることができる場合、当該デリバティブは発行者(親会社)の連結上、資本に分類されるでしょうか?
結論としては、このようなデリバティブも固定対固定要件を満たし、資本に分類されるとの暫定決定がされました。理屈としては、固定金額と親会社株式100株の交換が固定対固定要件を満たし、親会社株式100株と子会社株式200株の交換も固定対固定要件を満たすのであれば、最終的に交換されるのが親会社株式100株か子会社株式200株かその選択権が保有者にあるとしても、当該デリバティブは発行者(親会社)の連結財務諸表において資本に分類されるというもののようです。自己の資本性金融商品を基礎数値に持つデリバティブが資本に分類される理由の1つとして、固定対固定要件を満たすデリバティブの保有者は発行者の株式と同じエクスポージャーを負っているという点が挙げられますが、本件に関しては、保有者は親会社に対する株式エクスポージャーと子会社に対する株式エクスポージャーの両方を負っており、転換権行使時にはいずれか高い方の価値と交換する選択権が与えられています。すなわち1つの資本の価値に固定はされていませんが、発行者の連結財務諸表における資本は複数の種類が存在し得るので(親会社株式や子会社株式等)、上記の件についても固定対固定要件を満たすと考えているようです。
金融負債と資本の間の再分類
2022年6月のIASB会議において、当初の契約条件に含まれていない理由に基づき契約の実質が変更された場合は再分類を要求するものの、それ以外の再分類は禁止する旨の暫定決定がされています。本件についての詳しい内容は2022年6月のブログ記事を参照ください。
2022年6月のIASB会議では、再分類を実施するタイミングについては①状況の変化が生じた日において行う考えと、②期末において行う考えが議論されましたが暫定決定はされていませんでした。今月の会議ではこの点について再分類は状況の変化が生じたタイミングで行うことが暫定決定されました。
また、IAS32号23項における自己の資本性金融商品を買い戻す義務がある場合の規定においてreclassifyやreclassificationという再分類を想起させる言葉が用いられていることに関して、金融負債と資本の再分類は原則禁止するが当初の契約条件に含まれていない理由に基づき契約の実質が変更されたことによる再分類は要求するという再分類についての暫定決定との整合性から、reclassifyやreclassificationを他の適切な言葉に変更することも暫定決定されました。
法律/規制と契約条件の関係性
現行の金融商品の分類や会計処理は契約条件に従って行うとされており、この契約条件には法律/規制により生じる権利・義務を含まないとされています。ただし、法律/規制と契約条件については両者が重なる場合もあり(例えば法律/規制の内容を契約条件に含めた場合等)、どの範囲が法律/規制によらない(純粋な)契約条件かを特定することについて実務でばらつきが生じていました。
2021年12月のIASB会議ではこの点の整理がされ、IAS32号の分類において考慮する契約条件とは、契約に明確に記載をすることにより、当該契約に適用される法律/規制により生じる権利・義務に追加する形で又はより詳細に記載されることにより生じる権利・義務に基づいて行うとされました。また、契約の行使可能性(enforceability)を否定する法律がある場合はこれを考慮するとされました。
今月の会議では、上記暫定決定についてASAFが反対していることが紹介されましたが(反対の理由は、法律/規制を超えて契約に書き込まれた場合にのみIAS32号の分類に影響すると考える場合、経済的には同じ効果を有する金融商品でも、法律/規制が存在する国における分類と法律/規制が存在しない国における分類が異なってしまう)、金融商品会計は法律/規制により生じる権利・義務を考慮しないとしているため、ASAFの反対意見は考慮されませんでした。
結果として、今月の会議では、契約の行使可能性(enforceability)を否定する法律がある場合はこれを考慮するという上記2つ目の暫定決定について、この意図する点を上記1つ目の暫定決定の中に含める形で記述する修正が加えられました。
IAS32号23項及び25項が適用される場合の金融負債の測定
IAS32号23項では、自己の資本性金融商品を買い戻す義務を含む金融商品の取扱いが規定されています。このような金融商品は、当初認識時において将来の償還額の現在価値で測定するとされており当初認識時に金融負債を認識し、資本を借方計上するとされています。この借方計上する資本をどの資本科目で用いるのかについては2022年7月と9月に議論がされています。
今月の会議では、IAS32号23項を適用することにより認識される金融負債の事後測定は(資本ではなく)PLで認識されることが暫定決定されました(これはすでに暫定決定済みかと思いましたが)。また、当初認識時の測定と事後測定は一貫性を持って行うこと、すなわち測定においては、保有者がオプションを行使する可能性は考慮せず、行使可能なタイミングのうち最も早く行使されると仮定して金融負債の測定を行うとされました。また、23項で参照されている金融負債の事後測定はIFRS9号に基づき行うという点も、全ての金融負債はIFRS9号で会計処理されるという理由から、削除が暫定決定されました。
IAS32号25項には企業のコントロール外の事象に起因して金融負債が発生する場合や金融負債の金額が変わる場合の取扱いが規定されており、この場合の当初認識と事後測定についても上記23項と同じ考えが適用されることが暫定決定されました。
なお、IAS32号23項や25項が議論される場合は、金融負債の測定額についてIAS32号BC12項が参照され”maximum amount”の解釈が問題となりますが、スタッフペーパーでは当該金融負債の測定はFICEプロジェクトの範囲を超えているため償却原価法プロジェクト(2022年にパイプラインに追加された)の中で対応すべきと考えているようです。ただし、上記の暫定決定(保有者によるオプション行使は行使可能な最も早いタイミングを前提として金融負債を測定する)は多くの金融負債の測定の問題を解決するはずであるとの考えも記載されています。
企業のパフォーマンスや純資産の変動に基づいて支払額が決まる金融負債
2022年12月のIASB会議において、金融負債がFVTPL金融負債でありかつ当該金融負債の支払義務が企業のパフォーマンスや純資産の変動に基づくものである場合、当該金融負債の当期中の公正価値の変動額(PLで認識された額)を開示することが暫定決定されました。
上記に関して、今月の会議において、IAS32号41項の第2文に似たような規定があるため実務の混乱を回避するため当該第2文を削除することが暫定決定されました。
IAS32号で資本に分類された金融商品の表示
2022年12月のIASB会議では、IAS32号で資本に分類される金融商品について、FICEプロジェクト内においては特段の表示の修正は行わないというスタッフ提案に対し、何人かのボードメンバーが反対意見を表明し、スタッフが持ち帰って再検討することになっていました。12月のブログ記事にて内容を詳述しているためそちらをご参照ください。
今月の会議では、親会社の普通株主に帰属する情報を明確に表示することを要求する以下の暫定決定がなされています。
(1) 財政状態計算書において、資本金及び剰余金に関して、親会社の普通株主に帰属する価値とそれ以外の資本性金融商品の保有者に帰属する価値を分けて表示する。
(2) 株主資本変動計算書において、普通株式(クラス毎)とその他の資本(クラス毎)を分けて表示する。
(3) 包括利益計算書において、親会社の普通株主に帰属する当期の損益/包括利益とそれ以外の資本性金融商品の保有者に帰属する当期の損益/包括利益を分けて表示する。
(4) 株主資本変動計算書又は注記において、普通株主への配当額とそれ以外の資本性金融商品の保有者への配当額を分けて表示する(1株当たり配当額も同様)。
今後のプラン
FICEプロジェクトにおける次のマイルストーンは、当該プロジェクトにおいて今まで暫定決定してきた事項について公開草案を公表することにあります。現在は公開草案公表に向けた詰めの議論をしており、将来のIASB会議では必要に応じて今月と同じような議論が継続されていくと思われます。