はじめに

IASBは、分類と測定に関する公開草案(IFRS9号とIFRS7の改訂)を20233月に公表し、20237月中にコメントが締め切られ、同年9月に最初のフィードバックミーティングが行われました。

202310月のIASB会議では、契約上のCFについての改訂に対するフィードバックが議論されましたが、公開草案に対する関係者のコメントがかなり重いものであったため、今後の対応方針については次回以降の会議で議論される予定です。

202311月のIASB会議では、公開草案に含まれていた以下の論点が議論されました。

  n  期末直前に電子決済システムを用いて支払依頼をした場合、一定の条件を満たす場合は、決済日より前に金融負債の認識を中止し、同時に現金の認識を中止する会計方針を取ることを認める。

  n  IFRS9号で認められている資本性金融商品に対するFVOCIオプション適用対象についてのIFRS7号の改訂

電子決済システムを用いた場合の金融負債の認識の中止

議論されている取引の状況としては、期末直前に電子決済システムを用いて送金処理を行った場合で、相手の口座に入金されるのが期末を越える場合が想定されています。この場合、支払側が認識している金融負債を期末時点で認識の中止することが可能か否か、また、受取側が認識している金融資産を期末時点で認識の中止することが可能か否かがここでの論点です。

もともと当論点は金融資産を計上している会社側の会計処理がIFRICで議論されました。20226月のIFRIC会議では、期末時点において金融資産の認識を中止することはできない旨のアジェンダ決定が確定しましたが、IASBが承認する段階になって、アジェンダ決定の公表が中止され、基準設定に進むことになりました。

基準設定では、IFRICで議論がされた受取側(金融資産を認識している側)の会計処理ではなく、支払側の会計処理(金融負債を計上している会社の会計処理)に対する手当がされています。これは、仮に受取側の会計処理についてアジェンダ決定が確定・公表された場合、アジェンダ決定で示されたものと同様の考えが支払側にも当てはまると考えられ、実務への影響が懸念されたためです。

公開草案では、IFRS9号における金融資産と金融負債の認識及び認識の中止は、原則として、決済日(settlement date)に行われる旨が明確にされました。これは、今回の電子決済システムを用いて支払いの取組処理をした企業が期末時点において金融負債の認識を中止することは当該原則に対する例外であることを明確にする必要があったためです。

結果として、金融資産と金融負債の認識及び認識の中止の適用は以下のとおり整理できます。

金融資産の認識/認識の中止

金融負債の認識/認識の中止

原則

決済日

決済日

例外1:通常の方法による売買(Regular way purchase or sale

取引日会計(trade date accounting)又は決済日会計(settlement date accounting)の選択適用(ただし金融資産の分類方法に応じて同一の方法を適用する必要あり)

例外2:一定の条件を満たす電子決済システムを用いた金融負債の決済

決済日より前の、一定の条件を充足したタイミングで認識の中止があったとみなすことが可能(ただし当該選択はシステム毎に行う必要あり)

なお、デリバティブの認識日は取引日ですが、デリバティブには決済日(取引に入る際の決済日)がないため、スタッフペーパーでは取引日=決済日という整理がされています。

電子決済システムを用いた場合の金融負債の例外処理を行うための一定の条件とは、送金の取組依頼を行った後はそれを撤回することができず、実質的に自口座の現預金の利用が制限されること等が要求されています。すなわち、法的な意味では債権者に対する債務は免除されていませんが、電子決済システムに対して送金の取込み依頼をし、そのことにより実質的に自分の義務を履行したと言えるような状況の場合には、金融負債の認識を中止してよいということになりました。


支払企業にのみ例外措置を認め、受取企業には例外措置を認めない理由ですが、IASBとしては無条件に例外を認めるわけにはいかず何らかの要件を満たすことを前提に考えているところ、支払企業については送金依頼をし自口座の現預金に対する支配を実質的に失ったタイミングを認識の中止のタイミングとみなすことが可能と考えるところ、受取企業については当該タイミングは支払企業に対する請求権が電子決済システム(銀行)に対する請求権に変わったにすぎず、現預金を支配できるのはあくまで受取企業の口座に着金したタイミングであると考えられ、したがって受取企業について金融資産の認識の中止(そして現預金の認識)を認めるロジックが立たないということかと思います。

また、受取企業について基準の改訂を行わないということは、IASBはIFRICアジェンダ決定を公表するという方向になるように思いますので、IFRICアジェンダ決定が公表された場合には、期末時点で入金がないのに金融資産を現預金に振り替えている会社は会計方針の変更の検討が必要になると思われます。

資本性FVOCIオプション対象に対するIFRS7号の改訂

202311月のIASB会議を踏まえ、資本性FVOCIオプションに関するIFRS7号の開示(IFRS7.11A&11B)は以下のとおり改訂されることが暫定決定されました。

IFRS7号のパラグラフ

現行規定

改訂後

11A.(c)

資本性FVOCIオプションを適用したそれぞれの銘柄(=個別銘柄)の期末の公正価値を開示

11A.(c)だけでなく、11Aの規定全体について、クラス別の開示を要求(11A.(c)であれば、期末の公正価値は適切なクラスを設定して開示する)

11A.(f)

当期中の公正価値の変動(OCIで認識された金額)を、期末に保有しているFVOCI銘柄に対するものと、当期中に売却したFVOCI銘柄に対するものに分けて開示

11B(d)

当期中に行ったOCI累積額の他の資本への振替(例、OCIから利益剰余金への振替)のうち、当期中に売却したFVOCI銘柄に対するものの金額を開示

資本性FVOCIオプション対象銘柄については、銘柄を売却してもPLへのリサイクリングが禁止されているため、売却された銘柄の利得は期末保有銘柄の利得と共にOCIで認識されます。ただし、資本間の振替は認められているので、売却した銘柄の累積OCI金額をOCI残高から利益剰余金に振り替えているケースがあります。

上記のIFRS7号の改訂ですが、1つ目の変更は、現行基準では個別銘柄毎の期末の公正価値を要求していますが、それを適切なクラスを設定したうえで開示することに変更されました。また、このクラス毎の開示は、IFRS7.11(c)だけでなく11項全体に適用されるため、(c)項以外の項目についてもクラス別の開示が要求される点に注意が必要です。

2つ目の変更は、当期中に売却された銘柄の当期の公正価値変動額と期末に保有されている銘柄の当期の公正価値変動額を分けて開示することにより、来期以降の資本性FVOCI銘柄のエクスポージャーの把握に資することになります。また、資本に対する投資は、配当と公正価値変動の2つからなりますが、IFRS7.11(d)では、配当について当期中に売却された銘柄と期末保有銘柄に分けて開示を要求しているため、当期中の公正価値変動についても両者を分けて開示することが求められました。

3つ目の変更は、すでにIFRS7.11A(e)において累積OCI額の他の資本への振替の開示がありますが、当期中の売却銘柄に関する累積OCI振替額をピンポイントで要求したいようです。

おわりに

公開草案で提示された変更点についてのフィードバックのうち、まだ議論していないものが複数残っているため、あと数回の議論が必要と思われます。